今回は革命的な音楽制作ソフトウェア、Propellerhead Reasonについてレビューします。
■■■ Reasonの特徴 ■■■
Reasonのユニークな特徴として、
- ハードウェア環境で培ったノウハウを即戦力的に活かせる
- 各デバイス間を、いまどきCV / Gateでルーティングできる
…という2点があります。
ソウトウェアによる音源制作が主流の現代において、ハードウェア環境へと逆行するかのような仕様を採用するだけにとどまらず、USB接続が主流の現代において、MIDI接続ですらない、CV / Gate接続などという時代錯誤なシステムを最先端のテクノロジーに実装してしまう頑固かつ職人気質なスタイルを貫き通し続けているのが、愛すべきPropellerheadという会社であり、Reasonの特筆すべき最大の魅力といえます。
■■■ Reasonとの15年間 ■■■
私が音楽制作環境をReasonのみにして、15年が経とうとしています。
Reasonに出会った時、私は所有していたすべてのハードウェアを売り払いました。
いまでこそ原宿の聖地としてコアなシンセマニア達が世界中から巡礼に訪れるFive Gが、まだ南新宿で秘密基地的に運営していた頃に購入したRoland TB-303ですら、2台とも手放しました。
Reasonの前身ともいえるReBirthがあまりにも衝撃的すぎて、その時すでに何か予感めいた心のざわつきはありましたが、Reasonという革命的な音楽制作ソフトウェアが現実として登場したことでそれは確信となり、80年代から買い集めたすべてのハードウェアを手放す大きな方向転換となりました。
初代バージョンのベータ版のスクリーンショットを見た時の興奮は今でも鮮明に記憶しています。
今でこそパソコンのみによるスマートかつシンプルな音楽制作環境は当たり前ですが、90年代はハードウェアのシンセやエフェクタのラックを天井まで積み上げ、何台もの鍵盤に囲まれ、ミキサーの後ろは数多くのシールドやMIDIケーブルや電源コード類で埋め尽くされ、年季の入った機材になるとガリや不安定な動作に悩まされ、楽曲内での手動フィルター操作などは一切セーブ出来ず、一度レコーディングしたトラックは、シチュエーションによっては二度と再現できなかったりしました。
そのラック類が、全部ソフトウェアで再現されているスクリーンショットなのです。
これは私としては、ジュラシックパークで発表された「化石から取り出したDNAで人工的に恐竜を蘇らせる技術」に匹敵するほどの大事件でした。すべてのデータ化とそのセーブが可能で、自由自在に再現できるのです。
音楽機材的に表現するなら、サンプラー以来の大発明といっても過言ではないでしょう。それがReasonです。
1984年に購入したYAMAHA DX7が私が初めて手にしたシンセサイザーでした。気が付けばそれから30年。既にその半分がReasonのみでの音楽制作となってしまいました。
■■■ 入門ソフトとしてのReason ■■■
前述の通り、時代はパソコンのみによる音楽制作環境が広く普及していますが、機材には個性というものがあります。たとえば、minimoogの音はminimoogにしか出せないでしょう。個人的には、音楽の制作スタイルに正解は無いと考えています。ですから、Reasonのみで音楽を制作するのは私自身の個性であり、今も数多くの鍵盤に囲まれて音楽制作をされている方はいらっしゃるでしょう。
それを踏まえた上で、Reasonは初心者からプロフェッショナルまで、すべての音楽制作者にお奨めしたい素晴らしい音楽制作ソフトウェアであるといえます。
私はReasonの初代バージョンのベータ版がリリースされるや即ダウンロードし試してみましたが、英語が苦手な私が英語版の音楽ソフトを一切マニュアルも読まずにそこそこ思い通りの音を出すことが、いとも簡単に出来ました。これは私に、ハードウェアで培ってきた音楽制作のノウハウがあったからこそ可能だったわけですが、このことからも、Reasonの操作感がハードウェアのそれを忠実に再現していることがわかります。つまり、私とは逆のパターンで「Reasonから音楽制作に入門した方もスムーズにハードウェア環境に移行できる」ということを意味するわけです。
80年代や90年代と比べればハードウェアの性能も格段にアップし価格も手頃になってきていますが、それでも1カ月分のバイト代くらいはアッという間に消えてなくなるくらいの値段はするでしょう。それに比べてReasonは、$399という破格で、ハードウェアで全部揃えようとしたら年収分くらい軽く吹っ飛ぶ機材をすべて揃えることが可能です。まずはReasonでミキサーやエフェクタの接続パターンからシンセでの音作りなどを学び、必要に応じて順次ハードウェアに移行していく、という学習方法は、将来的にハードウェア志向な音作りを目指されている方にとって、非常に有効な選択肢でしょう。
数あるプロ御用達ソフトウェアが、ソフトウェアならではのアイディアで製品をリリースする中、これほどハードウェア環境との往来に適しているものはReason以外にはないでしょう。近年では全般的にソフトウェアも性能が上がってきているとはいえ「ハードウェアの迫力には適わない」と評価する方は少なくありません。「やっぱりあの音はハードウェアじゃないと出せないよね」という声はよく耳にします。もちろん、これは必ずしも「ソフトウェアがハードウェアに劣っている」という意味ではありませんが、自分が目指す音、その方の個性によってはハードウェアで環境を整えた方が適している場合もあります。そんな方が「予算の問題で今すぐにはハードウェア環境を整えられない」という場合に、Reasonという選択肢はとても有力です。Reasonで培ったノウハウは、必ずハードウェア環境で即戦力的に役立つからです。
■■■ ヴィンテージで最先端なReason ■■■
それでは、Reasonでは具体的には何が出来るのか。
おそらく私が把握する限り、現行の最新バージョンではフルオーケストラな交響曲から民族音楽、オルタナティブからジャズやクラシック、ポップスまで、思いつく限りのオールジャンルすべての音楽制作に適していますが、初代バージョン当初はReBirthの後継的な意味合いからも、テクノ界隈が最も得意なツールとしてスタートしています。
そういう意味でもReasonの基礎中の基礎といえば、やはりSubtractorでしょう。
これの何が凄いかというと、CV / Gateがルーティング出来るという点です。
このCV / Gateは、Subtractorに限らず、Reasonのほとんどすべてのデバイスでルーティングが可能であり、ReasonがReasonたる所以ともいえるReason最大の特徴のひとつです。
MIDIが実装されていなかった時代にも個性的かつ魅力的な音を出す名機と呼ばれるシンセサイザーは数多く存在しました。そのCV / Gate接続をMIDI接続に変換するアダプタ的デバイスもKENTONなどからリリースされ、MIDI改造を請け負う専門業者は今でも数多く存在しています。これら製品はMIDI接続が主流の時代には大変重宝する存在でしたが、Reasonの登場により、いまやパソコンのみですべてが完結してしまう時代となりました。
それを成し遂げたのがSteinberg Cubaseの開発者たちによるReasonであり、当初ReBirthのパッケージには、Steinbergのロゴが掲載されていました。Cubaseは元々Atariからロムカセットで供給されており、コアなテクノユーザーの間で話題となっていたシーケンサーに特化したソフトウェアでしたが、VSTの開発と実装で現在のいわゆるCubaseテイストへと進化していきました。一方、ReasonはデバイスのSDKをオープンにせず、あくまでも独自路線を貫き続けてきました。
フリーのVSTプラグインが世に溢れ、オープンに発展してきたCubaseに対し、Reasonはあくまでもクローズドで厳選されたユニークなデバイスの追加などにより発展を遂げてきました。
その基本デバイスが、Subtractorという、文字通りSubtractive Synthesis(減算合成方式)なシンセサイザーです。
前述の通り、minimoogの音はminimoogにしか出せませんので、Subtractorに骨太なベース音を求めても「それっぽい音」程度にしか作れませんが、入門機種としては最適なシンセサイザーといえます。
そもそも音とは何か、シンセサイザーの音声合成方式にはどんなものがあるのか、これは検索すれば読破しきれないほど大量に情報が表示されます。Reasonのマニュアルにも記載されていますが、ここではNIFTY-ServeのFROCKでSYSOPをされていた安西史孝氏による
シンセサイザー講座
http://ok-music.co.jp/
をポインタとしてご紹介いたしますので、詳しく勉強されたい入門者の方は是非ご覧ください。
もちろん、Subtractorその他ほとんどすべてのデバイスが、CV / Gateではなく、ピアノロールなシーケンサーで制御が可能であり、このあたりは他のDAWと大きな差はありませんが、少々テクノに偏った話題となってしまいますが、SubtractorをMatrixとCV / Gateで接続して制御するのが、初代Reasonの醍醐味でした。Matrixとは、いわゆるアナログシーケンサーであり、SubtractorのFilterやLFOなどをMatrixとCV / Gate接続するだけで、当初は延々と遊んでいられました。
さらに、ReDrumという、明らかにRoland TR-808やTR-909を意識したデザインかつサンプリング読み込み対応と更に進化させたドラムマシンの存在がテクノ野郎には失禁ものでした。
かなり主観的な発言になってしまいますが、
- Subtractor
- Matrix
- ReDrum
が、初代Reasonの三種の神器といっても過言ではなかったでしょう。もちろんサンプラーも搭載されていました。ここまで揃っているとDr.Rex(現行の最新バージョンではDr.Octo Rex Loop Playerに進化)の存在が霞んでしまうくらいですが、そのDr.Rexも非常に素晴らしく、Propellerhead ReCycleというサンプルループスライサーが出力する、サンプリングCDに必ずといっていいほど収録されている定番フォーマットのひとつであるRexファイルを自在に操れるデバイス、それがDr.Rexです。
これらシンセ・サンプラー類に加え、リバーブやディレイなど定番の各種エフェクターをミキサーでセンドリターンも出来ればギターのペダルっぽく直列接続も自由自在で、楽曲内の任意のタイミングでの設定の変化を全部セーブしておけ、それこそ15年前に作ったソングデータを当時のまま即再現が可能なのです。わざわざ教会まで帰らなくてもフィールドだろうとラスボス戦直前だろうとどこでも完璧にセーブできるわけです。当時これほど画期的なことはありませんでした。それなのに概念的にはCV / Gate。ヴィンテージと最先端が見事に融合した音楽制作ソフトウェア。これがReasonなのです。
そんなReasonもバージョンを重ね、2014年4月には7.1になりました。
今回はPropellerhead Reasonのレビュー〜音楽制作環境の革命〜をお伝しました。
次回はそのReason 7.1でどう進化したのかについて書いていきたいと思います。
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