レコーディングの完全デジタル化が進む一方で、アナログ機材の質感をミックスに取り込むことがトレ ンドとなっているということをよく耳にします。アナログ時代にあったノイズや雑味がデジタル移行によって排除されて、初めてそのありがたみに気付いたのだとか。今回はNomad FactoryのテープシミュレータープラグインのMAGNETIC IIをレビューします。
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■購入理由
宅録でのレコーディング、ミキシングが慣れてきて、綺麗に音像をまとめることについては自信をつけていた頃にテープシミュレーターという存在を知りました。近年の邦楽シーンでもラジカセから音が出ているようなオールドな質感を出すためにわざと汚しを入れた音源を聴くことがあります。宅録エンジニアとしていろんなタイプの楽曲を取り扱う中、このようなアナログ機材による音像作りがしたいと思い、様々なビンテージレコーダーをシミュレートしたNomad Factory MAGNETIC IIを購入しました。
■機材の説明
<テープ・モデル>
・MAGNETIC
・Otari MX-80、MTR-90
・Ampex MM1200、ATR-102
・Tascam ATR60-16
・Studer A80 Mk II、A827、A820
・MCI JH24
<パラメーター>
1.REEL SPEED:テープ・マシンの回転速度を調整。スピードを早くするほど解像度が高まり、遅くするほどカセット・テープのような音に。DASHを選択すると80~90年代のデジタルサウンドを再現することも可能。
2.SATURATION:真空管回路のTube、アナログ・テープのTapeを通じてサチュレーションを得られる。Tube-Tape両方を適用することも可能。
3.TAPE COLOR:テープ・コンプレッションが得られるパラメーター。Natural/Vintage/Modernの3モードを切替。
4.LOWS:低音域をブースト/カット。Body/Warm/Lushの3モードを切替。
5.HIGHS:高音域をブースト/カット。 Detail/Focus/Brillianceの3モードを切替。
6.BOOST:最終出力段階に装備された、ルックアヘッド・タイプのブリックウォール・リミッターのOn/Offを切替。
7.GAIN BOOST:ブリックウォール・リミッターに送る信号のゲインの調整。ゲインを上げる程リミット量が大きくなる。
8.OUT CEILING:ブリックウォール・リミッターの最大出力レベルを設定。シーリングを下げる程リミット量が大きくなる。
9.VUメーター:ブリックウォール・リミッターによゲイン・リダクション量を表示。
10.REEL TAPE MODELS:MAGNETICを加えた合計10種類のテープ・モデルを選択。
11.WOW & FLUTTER:Reel Speedノブを1から30の間に設定するとWow & Flutterノブが有効になり、アナログテープの再生時に発生する不規則な変化を再現。
12.POWER:プラグインのOn/Off。
・Mac OS X 10.8.5-10.11
・Windows 7, 8, 10
・AU、VST (2.4)、各32/64bit、RTAS (Pro Tools9〜10)、AAX Native(32/64bit)
※インストーラのダウンロード、およびオーサライズ時にインターネット接続環境が必要。
■機材のいいところ
1.合計10種類のビンテージレコーダーの質感を手軽に得られる。
Otari MTR-90やStuder A80 Mk IIなどアナログMTRの名器によるナチュラルな音質、サチュレーション/テープ・コンプレッションをアナログ機器の弊害(時間経過による音質変化、長期保存には不向き、トラック数の制限など)に悩まされることなく得られ、ワンクリックで機種の切り替えが可能。当時これらの機器を現役で使用していたエンジニア達は羨ましいと思うに違いないでしょう 笑
プラグインがデフォルトの状態で通すだけで、アナログの質感が得られます。ビフォーアフターを比べるとMAGNETIC IIを掛けた方が音に厚みを感じます。中音域がぐっと持ち上がった印象で元気のいいサウンドに。マスタリングで音圧を稼ぐ際にも、深く考えず通すだけで音源に勢いの良さ、迫力を付加することが出来るため、重宝しています。
2.アナログ時代の音質が蘇るREEL SPEED、WOW & FLUTTER
REEL SPEEDを遅くするほどカセットテープのサウンドに近づき、ローエンドやハイエンドが削られます。この質感が非常に音楽的で音が劣化しているのではなく雑味が加わって味が出るような印象です。
イントロや間奏部分に敢えてこのカセットテープのサウンドを使って、ギャップを作るというのにも有効でしょう。またWOW & FLUTTERを右に回すとテープの回転による不規則なノイズが再現します。
3.アナログ時代の奥義:テープコンプレッションを再現、TAPE COLOR
テープコンプレッションとはアナログMTRによるミキシングテクニックで、最大入力レベルを飛び出た音を飛び出る直前の音圧を保ったまま信号を入力する技です。これによりあるレベル以上の音は歪んでしまうのですが、この歪みが音楽的で音が力強くなったと感じるのです。今でもアナログ機材のファンが多いのはこのテープコンプレッションによるサウンドにほかならないからです。
※ちなみにこれをデジタル機器でやろうとするとデジタルノイズが発生し、音楽的に歪みを利用できません。
TAPE COLORのノブを右に回していくとコンプレッションされた音の比率が上がります。Vintageモードにするとダイレクトにテープコンプレッションのサウンドを体感出来ます。コンプのキャラクターとしてはアタックは早め、リリースは遅めでもっちりとした印象に。ドラムにかけると、立ち上がりの速かったバスドラム、スネアのスピード感を抑え、味のある汚しが入ります。
マスタリングで2ミックス全体にかけても、オールドな雰囲気を作れるので音作りが面白いです。
4.ざっくりとしている2バンドEQ
LOWS、HIGHSの2バンドEQはアナログの質感に更なる味を加えるツールです。積極的に音を変えるという使い方でLOWSをブーストすれば低音が力強くなるし、HIGHSをブーストすれば煌びやかさが付加される印象です。ローファイ気味にミックスをする際はHIGHSをカットして使うことが多く、作品感を追及する上でこのEQによる恩恵は大きいです。
■その他
ビンテージレコーダーが合計10種類シミュレートされており、どれを選べばいいか悩みます(笑)
このテープシミュレーター系のプラグインは音楽制作をしていない一般の方が聴くとどう変わったか分からない程微々たる変化のため、じっくり聴き比べる必要があり、ミックス、マスタリングで時間がかかります。プラグインの性質をしっかり理解して使うのも一つですが、このプラグインは何となくいじって丁度いい塩梅になったら完成というのが得策な気がします(笑)
■まとめ
以上となりますが、いかがでしょうか?
アナログ機材の質感を実機で体感するのは、現代では至難の業でしょう。しかしこのMAGNETIC IIを使えば様々なビンテージレコーダーを手軽に体感できて、多彩に音作りが可能になるので、ミックス・マスタリングでのアプローチが広がること間違いなしでしょう。もちろん現代的な音作りをする際にも MAGNETIC IIを通すことにより音の密度が上がったような効果が得られるため、非常にありがたいプラグインと言えます。是非ご自身のDAWに取り入れて活用してみてください。
・国内代理店、メディアインテグレーションのサイト
http://www.minet.jp/brand/nomadfactory/magnetic2/
・参考価格:¥14,472.-
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宮脇拓也
現在作曲に没頭中。
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