Komplete 10 Ultimate(以下K10U)レビュー第3回目となる今回は、FM8、Absynth、Reaktorについてご紹介していきたいと思います。
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Komplete 10 Ultimateのレビューその3~Fm8/Absynth/Reaktor編~
■懐かしのFMシンセサイザー、YAMAHA DX7を完全再現! そして、現代風にリメイクしたFM8
80年代に登場したYAMAHAのデジタルシンセ「DX7」 正弦波(サイン波)を加算合成・FM変調することで、あらゆる音が作り出せるというYAMAHA独自のFM音源を搭載し、その当時の主流だった減算方式のアナログシンセとは全く異なる独特なサウンドや、金属的な音なども作り出せる自由度と目新しさから、DTM業界でも異例の大ヒット製品となりました。
中でも、80’sバラードサウンドをリッチに彩る、キラキラしたDXエレピやDXベル、太くて硬質でキレのあるスラップ的な演奏ができるDXベースなどの音色が大人気で、当時の音楽ではこれらのDX7のサウンドを高確率で耳にすることが出来ました。DTM界隈では有名な余談ですが、クリプトン社のボーカロイド「初音ミク」のデザインモチーフは、このDX7シリーズが元となっているそうですw
FM音源は「オペレータ」と呼ばれる、アナログシンセでいうところの正弦波のみ発生させられるオシレータを複数持っていて、そのオペレータをあらかじめ用意された「アルゴリズム」と呼ばれる結線パターンで直列・並列に組み合わせ、そこでオシレータ同士で倍音加算や変調などを行うことで音色を作ります。FM音源にはいくつか種類があり、オペレータの数が多いものほど、自由な音色作りが楽しめます。DX7にはOPSという6オペレータのチップが搭載されていました。
この音色を作り出す方式がアナログシンセと大きく異なる、極めて独特な設計となっていたことや、実機のDX7は16文字2行の狭いデジタル表示で、特定のパラメータにアクセスするために、何度もボタンを押してページ切り替えをする必要があり、また、その階層も深く複雑だったことなどから、ツマミを触れば即座に音が変わる直感的なアナログシンセに慣れた人にとって、オリジナルの音色を作成するにはかなりハードルの高い製品でした。
さて、前置きが長くなりましたが、そんなDX7のFM音源サウンドをソフトウェアとして再現したのが、FM8の前身となるFM7です。FM7はGUIのルックスもDX7を彷彿とさせる、80年代風の懐かしいデザインでしたが、FM8にバージョンアップした時に、白くて近未来的な現在のGUIデザインへ大きく変貌を遂げました。PCのソフトシンセであるメリットを最大限に生かしてデザインされたFM7とFM8は実機に比べてとっつきやすく、すっきりとした構造となっており、手軽に音色作りやプリセット編集が楽しめます。個人的にはFM7でも十分に使い易かったのですが、FM8になって更に使い易くなったと思います。
また、FM7/FM8にはオリジナルDX7にはなかった多数のエフェクトやフィルターが搭載されているため、XYパッドで音色をモーフィングさせたり、カットオフやレゾナンスで音色にフィルター変化をつけることができます。DX7のSysExデータを読み込むことも可能なため、実機のDX7で作ったパッチをPCに持ってきて再利用可能という素敵な事まで出来ちゃいます!
私は古い人間なので、4オペレータのOPMを数字入力で弄っていたような世代なのですが、正直なところ、FM8の方が使いやすいし、シンセとして演奏した場合も楽しいと思いますw 秋の夜長にじっくりと弄り倒して音色を作り込んでみたいですね!
■常に変化球! 幻想的で不可解なサウンドを紡ぎ出すシンセ、Absynth
最近のKompleteに含まれる製品では、今やReaktorの次に古株なのがこのAbsynthです。いわゆるウェーブテーブルシンセシスとグラニュラーシンセシス、FM変調などをかけあわせられる特殊なセミモジュラーデジタルシンセです。モジュールが12個あり、これらをクロスフェードで行ったり来たりすることでサウンドのモーフィングができるのですが、ここから飛び出してくるサウンドといえばこれがもう、予測不能で複雑怪奇!w 弄れば弄るほど幻想的で不可解なサウンドがどんどん溢れ出してきます。
このサウンドのモーフィングの不思議さを何かに例えるなら、アメーバのような不定形生物、あるいはオーロラや虹のように少しずつ色の変わる自然現象、そんな印象を受けます。適当に弄っているだけで、大御所アンビエントミュージシャンのブライアン・イーノの気分に簡単に浸れますw(余談ですがブライアン・イーノといえば、Windows98の起動音でも有名ですね)
オシレータには最初から用意された波形だけでなく、自分で用意した物も使えます。ドラムループや声などを入れると、大変ユニークなサウンドが得られます。
Absynthを当時のハードシンセに例えると、KORG Wave Station辺りと着想が近いのかもしれません。Wave Stationも4つのウェーブテーブル音源をXYジョイスティックでクロスフェードさせてモーフィングできる変わったシンセでした。(これまた余談ですがKORG Wave Stationもソフトシンセ化されていますね)
NIと言えば今でこそKontaktのイメージが大変強いですが、昔からのユーザーとしては、Reaktorなども含めてこういった理系寄りの特殊なシンセサイザーデベロッパのイメージが強いです。あまりにも難解すぎて、忙しい時などは即座に投げ出したくなってしまいますが、FM8同様に使い足せば面白いシンセであるのは間違いありません。こちらも秋の夜長にじっくり腰を据えて挑んでみたい、ディープな魅力がある逸品です!
■これは正に化学反応! 無から有を生み出せるデベロップソフトウェア、その名もReaktor
Reaktorはオリジナルのシンセやエフェクトを作り出せるソフトウェアです。NIの最初の製品であるProphet-5の再現シンセ、Pro Five(その後Pro53となり、今はディスコン)。そのPro Fiveと同じぐらい古い歴史を持つのがこの製品です。一説によると、Pro Five、ひいてはKontakt初期バージョンも、このReaktorで作り出されたそうです。つまりKompleteに含まれる製品で、最も歴史が長いのがReaktorであり、ReaktorこそがNIの歴史そのもの、NI of NIといった存在です。
シンセやエフェクトを作り出せるソフトというとMax/MSPや、フリーではSynth EditやSynth Maker等が存在しますが、Reaktorはどちらかというと後者に近いです。昔はReaktor Sessionと呼ばれる、デベロップ機能のないパッチ読み込み専用のReaktorも存在しましたが、Kompleteに含まれるReaktorはフルバージョンですので、複数のモジュールを線で結び、直列や並列に組み合わせて、レゴブロックで遊ぶような感覚で自分専用のシンセやエフェクトを作ることが出来ます。
Reaktorには呼び出して即座に使える多くのシンセやエフェクトのパッチが最初から多数含まれています。また、Komplete 10にはこのReaktor上で動作する、Minimoogの再現シンセであるMonarkの他、RazorやSkannerXT、The Fingerといった、他ではあまり見かけない、いかにもNIらしい、超個性的なシンセやエフェクトが付属します。(これらも別の回で個別紹介したいと思います)
Reaktorはあまりにも自由度が高く、高機能なため、シンセやエフェクトのデベロップに興味のある方には、これほど素晴らしい製品(オモチャ?)も他にないでしょう!w MonarkやRazorなどを見る限り、技術と知識さえあれば、一般的な専用プラグインに近いハイレベルなReaktorパッチも、ゼロから作り出せてしまうわけです。ですので、腕に自信のある方ならば、自分の好みにマッチした専用プラグインを探し出すより、Reaktorで自作してしまった方が早いのかもしれません。
NIにはReaktorユーザーフォーラムがあり、日々ユーザー同士で熱い交流が生まれています。そしてユーザーメイドのReaktorのパッチも多数公開されています。Reaktorのディープな世界に触れてみたい、自分も何か作ってみたい、というのであれば、英語が主体となりますが、一度フォーラムを訪れてみることをオススメいたします! 私もReaktorの全貌を全く把握しきれていないのですが、いつか、自分専用のシンセやエフェクトを作ってみたいですね。
以上、【Komplete 10 Ultimateのレビューその3~Fm8/Absynth/Reactor編~】のレポートでした。ここまではKompleteの中核となるシンセ達を紹介してきましたが、次回以後はエフェクターやReaktor上で動作するシンセ、Kontakt拡張ライブラリなどについてレビューしていきたいと思います。お楽しみに!
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Dee!
クラブ系、歌物、ボカロ、同人なんでも。本業はWeb系。
元Rock oN Company/MI所属。
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