Caparison エレキギター比較レビュー

(左から Caparison Horus CL10、TAT Special CL14、Horus HGS)
昔から評価の高い国産(日本製)楽器、その中でも創業当時から国産でありながら海外を中心に比較的マニアックな層に支持され、現代ではお馴染みとなったモダンなロック・メタルギターの先駆けの一つとなったであろう楽器ブランド、Caparison Guitar。
今回はその中でもある意味最も個性的な27フレット仕様の3機種をブランドの解説などを踏まえつつレビューしていきたいと思います。

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購入経緯


学生時代の頃、たまたま東京へ遊びに行き、ネットで親しかった音楽仲間と楽器店を色々周り、地方在住では当時殆どお目にすることのない楽器をたくさん試奏させて頂きました。
ある大手楽器店で、セールで安くなっていた Caparison の Horus HGS(トップ画像の一番右の黒いギター)に出会い、演奏性や27フレット特有の音域の広さ、そして音色に惚れ込み、一旦はそのまま地元に戻りましたが、
最終的には自宅で楽器店に問い合わせ、購入に至りました。 それ以降、新たなモデルが出ると度々購入しております。

 

ブランドについて


元々は共和商会が代理店業務を行っていたブランド「Jackson(デカロゴ期)」と「Charvel」が、商標権問題により代理店業務を終了した後に、
当時日本製Jackson、Charvelの設計を担当していたデザイナー・菅野氏と共和商会が共に設立したブランドが「Caparison Guitar」です。

(Jackson ギターはその後「Grover Jackson」として中信楽器から発売されることとなります。)
事実上Jacksonから分裂・枝分かれする形で設立されたブランドになります。
その後共和商会が破錠して製造中止、最終的にはイギリスの楽器販売店に買収され製造・販売 を再開するなど、なかなか波乱万丈なブランドでもあります。(設計・製造は今でも日本国内でなされています。)
経緯上、Jacksonの流れを汲むブランドのため、細かな設計はJacksonに近い部分が見受けられますが、ハイミッド寄りだったJacksonのサウンドからいち早く低音寄り・重低音に特化した設計に見直したことで、当時ヨーロッパで黎明期を迎えていたメロディックデスメタルなどダウンチューニングを多様するバ ンドに受け入れられ、高い評価を得るようになったようです。
現在では、ダウンチューニング向けの楽器やモダン志向の楽器も珍しくはなくなりましたが、現代においてもモダン志向のハイエンドギターを語る場合は、だいたいの確率で話題に挙がる楽器ブランドです。

 

音色(各機種共通)


Caparison ギター全体の特徴として「低音に特化した設計」ということは先に述べたとおりですが、 これだけでは「低音を強調しすぎて音がこもったりしないのかな?」と思われることもあるかもしれません。

しかしながら、使用している側からすると、それは多少誤解があると思います。
実際の所は「重心が下がった」と表現するのがおそらく一番適切で、誤解のない表現だと思われます。
低音を強調することはあまりせずに、各音域のピークの位置を下げてやることで、低音の再生能力を向上させた、と言う方がより説明としては適切でしょうか。

かと言って、高音が出づらいのかというと全くそうではなく、むしろ高音はブライトでハッキリ出る傾向があります。
そのためクリーントーンも使いやすく、独特のきらびやかさと艶がありつつ、どこか影のある音色は、アルペジオなどに最適です。(音作り次第で明るいクリーンも簡単に作れます。)

当然歪みも上記の設計を活かしたローの再生力とブライトな高音により、輪郭を維持しつつも太めのサウンドを出力しています。
ただ、評価が分かれる箇所として挙げられるのは、特にリードやソロギターを演奏する際、ピッキングの強弱などによって、基音が倍音に散ってしまう現象が起こることがあります。
この点は、安定した音色を求める方には多少不向きではありますが、逆にこの点を利用すると、ハイゲインなサウンドでも細かいピッキングによる表現がし易いということになり、 ピッキングの技術が上手ければ上手いほど、多様な表現が出来る楽器でもあります。

これらの音色はローミッド寄りの生鳴りと、高音寄りながらも素直な音を出力する純正ピックアップによるものですが、 この独特の音色を持つ純正ピックアップは特に評価が分かれており、愛用者の中では交換して使用する方も多いようです。
しかし、特有の反応の良さや艶のある音色から様々なジャンルで使いやすくなっており、同社の別モデル(Caparison Angelus モデル)ではございますが聖飢魔II・face to ace のACE氏(エース清水氏)が使用される通り、フュージョンなどのアプローチも案外合うと思われます。
また、今回紹介する 27 フレットモデルはフロントに独自設計のピックアップが搭載されており、27フレットの設計上、不利になりがちなフロントピックアップの音色の問題を解消し、太く甘い音色を実現しています。
ノイズ対策も徹底されており、パッシブピックアップ仕様の楽器としてはかなりノイズが少ないと思います。

 

演奏性・操作性(各機種共通)


演奏性も定評通り、コンパウンドラディアス指板の採用など弦高が低く設定できる設計でありますため、テクニカルな演奏にも当然のことのように対応しております。
電装系も基本的に非常にシンプルな設計ですが、筆者はトーンコントロールを頻繁に使うため、トーンポットを増設 or 交換、ボリュームポット引き上げでコイルタップが出来るよう改造しております。
トレモロブリッジは Floyd Rose タイプのトレモロですが、よくある Floyd Rose Original ではな く、Schaller S-FRT-II が搭載されているのもポイントです。(通常の Floyd Rose よりも音が太めになります。)

 

各個体の特徴


こちらでは上記の共通した特徴を踏まえつつ、各個体の特徴についてレビューしていきたいと思います。

Horus HGS Pro.Black

筆者が最初に購入したCaparisonのギターです。
所有しているCaparisonの中でも最もオープンでかつ引き締まったサウンドを出力する個体です。
ウォルナットボディにメイプルネックと指板、塗装は高音の鳴りを抑え、更に重心の下がった音色にするために開発された艶消し塗装である Pro.Finish が採用されています。
他2本に比べると、腰の据わった・地に足の着いた音色が特徴で、上記でも指摘した「基音が倍音に散る」現象も控えめで、ある意味今回紹介する 3 本の中では最も一般的なエレキギターらしい音色を持っています。
リードギターはもちろん、特にバッキングギター等で粒の粗さを保ちつつ、安定した出音が欲しいときに最も役立つ楽器だと思います。


 

Horus CL10 Trans.Blue

Caparisonが2010 年に初めて発表した限定生産の最上級ライン「Custom Line」シリーズの Horus です。
美しい5Aランクのフレイムメイプルトップが印象的ですが、そのフレイムメイプルのトップ材が驚くほど分厚く贅沢に使われているのが最大の特徴です。 (メーカーによればフレイムメイプルを装飾ではなく、音色の要素として取り入れた結果であるとのことです。)


また、バック材はメイプル材をマホガニー材で挟んだM3と呼ばれる仕様なのも特徴です。
音色は滑らかで、ボルトオンらしいアタックに加え、スルーネックに近い豊かなサスティン(音の伸び)があります。
比較的中域寄りで、Caparisonとしては穏やかで明るめなサウンドになっており、リードギターで歌 わせるような演奏をするのに向いています。
また、穏やかなサウンドなので、クリーントーンで指弾きをするのも楽しい楽器です。
所有しているCaparisonギターの中では最もオールマイティーで使いやすいと思います。


 

TAT Special CL14 Trans.Black Cherry

2014年に発売されたCustom Lineシリーズ、スルーネックモデルTATの27フレット仕様、「TAT Special」です。
最近になって、Horusを含め27フレットモデルの演奏性が改良されたようで、 「そこそこ使えるオマケ」程度だったハイフレットの最終フレット付近が非常に弾きやすくなりました。
こちらも美しい5Aフレイムトップが印象的ですが、ご多分に漏れず、こちらもトップ材が分厚く贅沢に使用されております。


スルーネックらしい骨太な音色と長いサスティンが特徴的で、独特のコンプ感があります。
高音から低音までワイドレンジな音色ですが、大人しめで、暗めな音色です。
しかし、スルーネックの恩恵なのか、どこか濃密で包み込むような音色を出すことがあり、妖艶さすら感じることもある、ある意味で大人っぽい音色です。
この個体でなければ出せない音色や雰囲気が多々あり、ルックスを含めてHorus CL10とは対極に位置している楽器です。

 

欠点


使い慣れている筆者の主観ではほぼこれと言った欠点はないように感じられますが、他の楽器に比べると融通が効きづらい音色でもあります。
例えばピッキングニュアンスの出方なども、倍音をコントロールするような感じで出てくるため、クランチレベルの歪みを使用してピッキングでクリーンと歪みを使い分ける弾き方をする場合はそれなりに慣れが必要です。
加えて今回のようなフロントピックアップがシングルハムのモデルの場合は、高音寄りで上擦り気味な音色のリアピックアップと、密度が高く重厚なフロントピックアップの音色の差が極端すぎるため、場合によっては音作りの難易度が非常に高いことも欠点としてあげられると思います。
また、ハイエンドギターの類なので、レギュラーモデル・カスタムライン共に価格が高めです。
(しかし、少数生産気味であることや木材の品質等の面を考慮すると、同系列の国産楽器ブランドの中では比較的安い方ではあるかもしれません。)

 

まとめ


楽器ブランドとして、創業当時からデザインや音色・演奏性など一貫している印象があるブランドです。
国産の楽器といえば、海外でも高い評価がありますが、どちらかと言えば「素直でクセもなく、万能でなんでも出来るけど、個性もそんなにない」ような楽器が数多い中で、創業から変わらない個性を維持し、独自性を更に高めていったブランドはあまり居ないような気がしています。
そういった個性は、ある意味多くのギタリストには使いづらいことも多いかもしれず、万人受けはしないのかもしれません。
しかし、一度この楽器にハマり、仲良く(変な表現ですが)なってしまえば、どんな音楽でもとことん 演奏でき、今までにない音色を紡ぎ出すことが出来るのではないかと思います。
その音色を出せた時には、筆者がそうであったように、既に手放せない相棒として長く付き合ってくれる楽器になっていることでしょう。

万人向けとは言えませんが、是非一度は試していただきたい楽器です。

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宮脇拓也

宮脇拓也

webエンジニア兼ライター、DTM REVIEW編集部。
現在作曲に没頭中。
宮脇拓也

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